「守破離」とは、日本の茶道や武道などの芸道・芸術における師弟関係のあり方の一つであり、
それらの修業における過程を示したものです。
千利休の訓を纏めた「利休道歌」「 規矩作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」
を引用したものと言われています。
この京都の「守破離」は、千利休の考えが転じて、専門性を有した人たちが集まり、
自己の殻を破り、繋がって、新しい価値を創造する場のイメージです。
「守破離」はまた、新結合を促進する場です。
新結合とは、1912 年に経済学者のシュムペーターが構想したイノベーションの基本概念であり、
何かと何かを繋げることで新しい価値が生まれるということです。
京都は元から好きな場所でした。娘の大学進学をきっかけに、京都が第二の拠点となりました。
京都に気軽に足を運べるようになり、あちこちで見かける京町家にも興味を抱くようになりました。
そして、2018年に京町家を探し始めました。当初はゲストハウスとしての活用を検討しましたが、
この蓮華蔵町の町家を見つけたころに突如、新型コロナの大流行が始まりました。
ゲストハウスは断念せざるを得ませんでした。
さあ、どうしようか?そこで考えたのが、イベント・スペースとしての活用です。
不動産会社に紹介され、この聖護院蓮華蔵町の長屋を初めて見たときにはびっくりしました。
「かなりボロボロだな。でも、躯体はしっかりしていそうだ。」
この町家を再生することは、伝統と革新の新結合とも言えるのではないか?
そうか!コンセプトは新結合だ。何かを学ぶ真摯な姿勢と、
何かを伝え教える開放的な態度との新結合。
右脳的な感性・感覚と、左脳的な論理・思考との新結合。
様々な考え方や多様性と、物事を前進させる凝集性との新結合。
中長期的なシナリオと、短期的な計画との新結合。
集う誰かと、対話する誰かとの新結合。場のイメージが固まってきました。
そこで、建築家を紹介してもらい、本格的に場の設計に移っていきました。
この「守破離」を設計した魚谷繁礼建築研究所の魚谷氏に、設計意図について解説していただきます。
「井上さんからは、住居部に併設するかたちで、創造される場が求められました。
この長屋に用いられている木材の多くは、おそらくは他の町家や水車などで用いられたものが転用されたものです。
それ以前は、もちろん森の木でした。土壁は地面の土でした。
この長屋は、建築されてから幾度かの改修を経て現代に至りました。
そして今回の改修を経て、50年後100年後と改修が繰り返されるだろうことを意識しました。
またいつか土壁の土は大地に還っていくことでしょう」
「古いものと新しいものを対比させるような一義的かつ二項対立的な空間でなく、
多様な時間を帯びたものが幾重にも積層され、古い新しいの概念がときに逆転するような多義的な空間を考えました。
この闇と光と庭の緑と、ときには時間までも交錯するような空間で、議論が重ねられ熟成され、
新しい未来が創出されることを期待します」
幸いなことに、魚谷氏の考えは僕の新結合の考えと合致していました。
議論を重ね、「守破離」の全容が明らかになっていきました。